「無理矢理キスされた」と君が泣いた。

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「無理矢理キスされた」と君が泣いた。

「無理矢理キスされた」 と君が泣いた。  十年来の付き合いの中でもなかなかのニュースだ。  なお、その大罪人には渾身の右を食らわせたらしい。 「好きな人がいるのに、来週告白するって決めてたのに」  もうキスできない! と君は叫んだ。  赤くなった口元は少し切れている。  多分今強く目元を拭ったように、何度も擦って洗ったんだろう。  いやどんだけ乙女だよ。  キスの有無なんて言わなきゃばれない。  そんなこと確認する奴の方が少ないし、実際自分みたいに、皮膚の接触だとしか思ってない例もあるんだから。  でも君がこの世の終わりみたいに嘆くから、ない知恵と人の心を振り絞ってなぐさめようとしたんだ。 「唇の表皮は2週間で新品になるらしいよ」  クッションが飛んできた。  それ以来ラインも電話も返事がない。  なるほど認識を改めよう。キスとはおおごとだ。  メールでも謝った。家にも行った。  皮膚の接触ひとつで親友を失うなんて、なかなかにぞっとしない。  2週間後、玄関に君が立っていた。  「好きだ。キスしろ」  した。 (終)
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