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「転勤?」  目の前で味噌汁を啜る父さんに聞き返す。  珍しく「一緒に朝食を」と声を掛けてきたと思ったらこれだ。どうやら目的はこのチェーン店で俺と一緒に朝食を摂ることではなく、転勤の話を伝えることだったらしい。 「ああ、来月から。関東の支店に行くことになった。Y市だ」 「ふうん」と一言だけ呟いて、俺も味噌汁を啜る。豆腐の欠片が喉に引っ掛かって(むせ)そうになった。 「悪いな、陽」 「……何が?」 「せっかく中学校にも慣れてきたところだったのに」  申し訳なさそうな顔をする父親に向かって、責めたり駄々をこねたりするような歳でもない。そんなことをしてもただ親子関係に溝ができてしまうだけで、何の意味もなさないことは知っていた。 「しゃあないやん。仕事なんやから」  コップに残った冷水を一気に飲み干して立ち上がる。 「朝練遅れるから先行くわ」  鞄を肩にかけ、テーブルの上に置いていた自転車の鍵を手に取ると店を出る。  来月ということは、このまま夏休み中に引っ越して、向こうで新学期を迎えるということだろう。 「……隼人(はやと)にいつ言うかな」  30分後に顔を合わせるチームメイトの顔を思い浮かべて溜め息を漏らす。  ――やっぱり部活なんか、入らんかったらよかったな。
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