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嬉しいことを言ってくれるじゃないの……
だけど、彼の次の一言で、せっかく上がりかけた私の気分は一気に急降下する。
「先生のご主人だって、そうなんじゃないですか?」
……それは違う。断じて違う。声を大にして反論したい欲求にかられるが、私は黙って愛想笑いを返しただけだった。
宮内さんは深くため息をつく。
「まあでも、ほんと、ご主人がうらやましいですよ。ここまで先生に愛されてるなんて……さぞかし先生も、ご主人に愛されているんでしょうねぇ……」
「……」
とんでもない。私は愛されてなんかいない。愛されてたら、浮気なんかされるわけがない。でもそんなこと、とても言えるはずがない。
私は言い聞かせる。ともすれば、泣き出してしまいそうになっている自分に。
泣くな。耐えろ。耐えるんだ。
取ってつけたような微笑みを、私は顔に貼り付ける。きっと素面の彼が見たら、その不自然さに気づいたことだろう。そして、そこに付け入るスキを見つけた彼は、私を陥落させたかもしれない。
だけど、おそらく今の彼はそれができるには少しアルコールが過ぎているようだ。
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