ずぶ濡れスーツの王子様

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それからの毎日は、マンションと支社、それとアイランド商会の往き来がほとんどだった。 与えられた仕事の企画書、見積もり作りから、関連する企業へのお願いや、必要な物品の手配。その他諸々…。 疲れた体を引きずって家に帰り着くと、唯愛が、温かな料理で出迎えてくれる。そのことが、心と体を癒してくれていた。 そして。もうひとつ。俺の心を癒してくれてるのは、まだ見ぬ我が子だ。 日に日に大きくなっていく唯愛のお腹をそっと撫でながら、お腹の中の赤ちゃんに語り掛けるのが、最近の寝る前の日課になっていた。 「早く、出ておいで、俺達の赤ちゃん。」 ピク。ピクピクン。 「なあ、今、返事したよな!絶対、俺の声に反応してるよな?」 「うふっ。そうかもしれないね。」 小さく内側から押し上げてくる感触が、まだ手に残ってる。唯愛のお腹の中にいる赤ちゃんに、愛おしさが120%働いていた。 男と言う生き物は、結構自分勝手だ。パートナーの妊娠で、何ヵ月もお預けを食らわされてしまうと、耐えられなくなって、無理矢理パートナーの体を求めてしまうとか、フラフラと色香に誘われて、浮気に走るとかよくあるらしい。 けれど、俺は、突然の海外赴任で、環境が変わってしまってことや、仕事が忙しくて、疲れて果てているのか、今は、気持ちがあっても体が反応してこないんだ。 その上、こんな風に、赤ちゃんを間接的とは言え、感じてしまうと、唯愛に手を出すなんて出来ないし、ましてや、他の女に目が眩むなんてありえない。 「なあ、唯愛。この子の名前、そろそろ考えないといけないよな。 唯愛は、着けたい名前あるのか?」 「特別ないよ。私は、春樹が考えてくれたものなら、文句言わない。」 「いいのか、そんなんで。」 「私は、直感を信じるタイプなの。絶対、春樹が素敵な名前考えてくれるって思ってるもの。」 「期待されたら答えちゃうんだよな。特に唯愛からの期待はさ。 少しだけ時間くれるかな。幾つか考えるから、その中で良いのを選ぼう。」 「うん、そうする。」 可愛い唯愛の笑みに、俺も微笑み返していた。 おやすみのキスをしてから、そっと彼女を抱き締めて、俺は、眠りについたんだ。
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