ずぶ濡れスーツの王子様

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午前中、ずっと唯愛のことが気掛かりだったけど、仕事がまず優先だった。 『すいません、妻が具合悪いので休みます!』 他の日だったら、絶対にそう言ってたと思う。だけど、今日だけは、不味いんだ…。 アイランド商会から請け負った小口の仕事の中に、とんでもなく大口に変化する案件が隠れていた。たぶん、アイランドの人も気付いてなかったんだと思う。 小さな案件が切っ掛けになって、それに付随する案件を手掛ける。更に、それに繋がるもの…更に…更に…。 連鎖的に広がっていく案件は、よくあることだ。おかげで、小さな案件を沢山抱え込んで、身動き出来ないなんてことも、ままあるんだ。 だけど、今回は違った。小さかった案件が切っ掛けになって、相手の企業の大口の案件に、いきなりがぶっと食い込むことになったからだ。 こうなったら、俺ひとりで決裁できるようなものじゃなくなって、部長どころか、支社長まで出てくることになってしまっていた。 「すいません、支社長にまで、ご足労を掛けて。」 「いやいや、内は、君のおかげで、優良な大口案件が転がり込んできたんだから、これくらいさせてもらわなくてはね。」 「そうだぞ。こう言うのは、タイミングの問題だ。逃すと、指を咥えて泣くしかなくなるんだからな。」 支社長と部長に言われて、ちょっと恐縮する。 何だかんだとあったが、今日、本契約をするんだ。 「老舗のアイランド商会さんからの紹介ですし、世界的に販路のある四葉インターナショナルが商談相手となれば、我々も、腰掛け仕事と言うわけにはいきませんよ。」 相手の社長も支社長が出て来てくれたってことで、超ご機嫌で、ノリノリなのだ。 俺の緊張感なんて、関係ないのか? この人達には…。
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