第八章 虚構

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「今までに数百回近く試したが、ウィンフォス王国が建国される前後の時代に行けたことは、一度もない」  大魔王は修復された場所から動かず、右手の上で展開させた魔法陣の球体を見つめながら左手で何かを書き込んでいた。そして作業の手を止めると、手のひらの球体を消失させ、コルティ達に体を向ける。 「余の魔力をもってしても、決まった時代と場所に送り届けることは難しい。この4年でできたことは、せいぜい1人の人間を過去に送り込み、《死体》にならない程度の状態で戻って来られる程度の呪法を開発したにすぎん」  本来ならば、それだけでも末恐ろしい魔法なのだが、大魔王が言うとまるで新しい料理に挑戦する程度の難しさにしか聞こえてこない。 「しかし、時間をかければもっと精度の高い呪法になるのではありませんか?」  コルティにとって、過去に飛ばされた主人に会う事が現実味を帯びたことに高揚し、いつかは完成する希望を抱こうとする。  だが、大魔王が返した言葉は残酷であった。 「正論ではある。そうだな、あと二百年もかければ、概ね完成するだろう」 「いや、それ………私達、生きていないんですけど」  ケリケラが呆れながら目を細める。どんなに肉体的に優れていようとも、亜人や獣人の寿命は人間と同じか、やや長い程度である。当然ながら、二百年の時を生きることは不可能であった。 「しかも、会社(カンパニー)の妨害を受けないことが条件です」  シュタインが、リコルの分を含め、全員分のお茶のお代わりを持って来る。 「会社(カンパニー)の情報網から逃れつつ、数百年単位で研究を続け、奇跡に近い点を狙って魔王様と合流しなければなりません。当然ながら、我々の数世代先の者達に全てを託すことになるでしょう」 「だが、奴らは俺達のことを、かなり危険視しているようだ」  リコルがお茶の入った湯呑を手に取る。 「当然、奴らに対抗できる力と組織が必要になる」  彼の目は遠くを見定めていた。
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