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部屋の時計では夜中を指している時間だが、星は1つも見ることはできない。街灯の照明の数を減らして、時間の経過を伝えようとしている幻想的な風景ではあるが、自然に反している側面もあり、どこか物足りなさを感じさせる光景が広がっている。
どの家も明かりが消え、皆が寝静まっている中、コルティは村の中心にある小さな広場で、1人白銀の斧を何度も振り続けていた。
ぼんやりと明るさの残る世界で、白銀の一閃が様々な角度で引かれていく。斧の重量を利用し、流れるような動きで振り下ろした斧が、自然と頭上へと戻るかのような軌跡を描き続ける。
「………ふっ」
息を吸って斧の位置を固定させ、吐きながら振り払う。コルティの体も斧の後を追うように舞い、遅れて汗が土の上へと落ちていく。
既に30分以上振り続けているが、彼女の心も頭も無心とは程遠かった。
コルティは斧を振り下ろすと、そのまま地面と平行になるように斧を静止させる。そしてゆっくりと斧を降ろすと刃先を地面に触れさせ、流れる汗の落下点を視線で見つめながら斧に体を預けた。
「………良い腕だ」
闇夜の中から大魔王の姿の半分が街灯に照らされる。大魔王は少しずつ広場に近付き、その全身をコルティに見せた。
「いえ………無我夢中で振っているだけです。型にすらなっていません」
深呼吸とともにコルティは体を起こし、大魔王に顔を向ける。
「頭も心も切り替えようと思いましたが、中々に上手くいかないものです」
今日の話を整理するだけで、あらゆるものが一杯になったと、コルティは近くのベンチに置いてあったタオルを手にして顔をうずめた。
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