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「何か聞きたいことがあるのか?」
大魔王の声に、コルティの手が止まる。
「………尋ねれば、答えて頂けるのですか?」
汗を拭き終わったタオルをベンチに戻し、柔らかい表情のまま、コルティは笑って見せた。
大魔王も、右手で顎を触りながら微笑み返す。
「尋ねれば、か。答えても良いが、余からも条件がある」
大魔王の微笑みに影が入り、ついには冷徹な表情へと移り変わる。
「余も久々に体を動かしたくなった。少し相手をしてもらおうか」
「………っ!?」
大魔王の右手が上がり、左手が下がっていく。ただそれだけの動作でしかなかったが、まるで縄で縛られたかのようにコルティの動きが止まる。空気があるにもかかわらず呼吸ができず、気温が下がっていく、体温は外へと逃げていき、下半身の感覚とともに上下左右の方向感覚すらも失われていく。
錯覚か、現実か。それ程の存在が目の前に立っていた。
コルティは腹の下に力を込め、大きくゆっくりと息を吐きながら精神を集中させる。そして体の一点を強く意識し、自分の存在を認識させる。
「ほぉ………動けるか。それだけで一人前だ」
大魔王の両足が開き、構えが完成する。
「殺す気で来るがいい。余を満足させられたのなら、お前の疑問に答えよう」
「………行きます」目の奥の深みが増す。
コルティは腰を低くさせると、白銀の斧を後ろへと構え、強く握り締める。いつの間にか虫の声も、風の音も止み、白銀の斧から軋む音のみが響いていた。
コルティは地面を蹴り、正面から大魔王に挑んだ。
「お覚悟!」
コルティが地面を蹴って白銀の斧を振り降ろすと、大魔王は開いた右手でそれを受け止める。大魔王の足元が僅かに沈み、円形に亀裂を発生させる。
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