第九章 ウィンフォスの名をもつ青年

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「それじゃぁ行ってくる」  相田はキールやロデリウス達に手を振り、背中と同じ大きさの籠を背負って屋敷を出発する。  目指すは南の森。今はまだ名前はないが、やがて『魔女の森』と呼ばれる動物が生きてはいけない森である。相田は、ロデリウスとの約束の下、森の中で自生している特殊な薬草を取りに行った。  破れかけた服も黒い装備も相変わらず、着の身着のままである。相田は魔剣を置いて行こうとも一時考えたが、下手に触られた方が困ると考え、しばらく黒の軽鎧と共に常に身に付けることにした。 ―――どのような形で歴史に介入していくか。  南北を通る土道を下りながら、相田は自分が取るべき道筋を想定する。  腰の魔剣との出会いは、カデリア王国の王都ブレイダスであった。テヌールの知人で、古物商か呪いの品を扱っていた店の地下に保管されていたものであり、既に双子竜の魂が封じられていた黒い剣である。 「普通に考えれば、この時代で双子竜を倒し、剣に魂を封印したということになる」  その後、どのようにして剣が隣国に行きついたのかは不明だが、相田は情報の少なさから、すぐに保留とした。  何気ない顔で村人と挨拶を交わしながら坂を下り終え、柵に手を掛けて飛び越える。この村の入口は北と東にしかなく、相田にとっては単に東から出て南に向かうのが面倒だったからという理由だけであった。 「後は、この鎧が王国に保管され続ければいい、ということくらいか」  だが相田は、この鎧を初めて王城の宝物庫において見せられた時、その色は曇りなき白銀であったことを思い出す。この鎧が黒く染まったのは、相田が鎧に触れてからの話であった。  それも今の情報だけでは判断できず、相田はこの件も保留とするしかなかった。    同時に確かめなければならないことも山ほどあった。相田の頭の中で、考えれば考える程、あれもこれもと思い出し、優先順位の紐が複雑に絡み合い始める。 「こうなったら、1つ1つ確認するしか、あーりませんな」  無駄に冗談めかしながら相田が口にすると、その足を止めることなく森の中へと入って行った。
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