第九章 ウィンフォスの名をもつ青年

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 今までにない初めての感触であった相田は、魔剣の刀身をなぞる様に目で追いかけた。 「………刃こぼれは、ない。しかし、切れ味は落ち気味、か………剣の能力不足か、それとも俺の能力の問題か」  結論は出ない。むしろ考えれば考える程、自分自身の想像力に影響が出るかもしれないと思い始め、相田は思考を一時停止する。  そして大きく息を吐き、無心になろうと感情の荒波を水平に撫でるように心を落ち着かせた。  次に相田は、足元に落ちている爪ほどの大きさの小石を右手で握り締めると、親指と人差し指の隙間から小石の顔をのぞかせた。 「………指弾」  言葉と共に、相田は小石が飛ぶ先を想像する。そして慣れた手つきで小石を親指の爪で弾かせると、小石は重力を無視するかのように地面に対して水平に飛び跳ね、凝縮した乾いた音と共に正面の樹木へと深く突き刺さった。 「これも、か」  樹木の幹が粉々に破裂するかのような威力を想像したが、相田の想像力と結果が噛み合っていない。威力だけならば、これでも申し分ないものの、消化不良に近い感覚に、相田は腰に手を当てて眉をひそめた。  両手を何度も握っては開くことを繰り返すが、体自身の違和感や力の入れ具合に問題はない。 「さっぱり分からん」  首を傾げて、後ろを振り向くと、そこには籠の半分までが草で覆われ、その籠の淵で力尽きているフォーネの姿があった。 「お、随分と集まったな。助かったぜ、フォーネ」  明るく振る舞う相田に、フォーネは疲れた表情のまま小さな親指を立てる。  だが、加護に近付いた相田の表情は一気に曇り始めた。 「ん………これは。あ、これもだ」  籠の中の葉を適当に取り出す度に、表情が悪化していく。 「ほぃ。フォーネ、あーん」  相田は手に取った葉を息切れしていたフォーネの口元に近付けて、僅かに触れさせた。
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