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だがリコルは仕方がないだろうと眉をひそめ、些細ながらも苛立ちを見せる。
「誰かが言わなきゃならないのさ………あいつは、もういないんじゃないかって、さ」
強制的な程に優しい性格をもちながらも、王国や仲間を守るために悪の象徴である魔王を名乗らざるをえなかった男がいた。彼は別の世界から呼び出され、何も分からないままこの世界の歴史に関わり、そしてこの戦争を終わらせた。
無類の強さと優しさを兼ね備えた人間が、3か月も音沙汰もなく、仲間の下へと戻ってこない。これが何を示すのか、彼のことを知る者であれば、少なからずい抱いてきた疑念をリコルは敢えて口にする。
草木も生えぬ荒れ地となった平面を乾いた風が流れていく。
「コルティ! あったよ!」
街の奥へと探索に出ていたケリケラが空から戻って来る。両腕が黒い翼である彼女は半分涙目で、コルティの下に降り立つと、何も言わずに彼女に抱きついた。
「ケリケラ? 何があったのですか?」
「あったよぉ………お父さんの、お父さんの」
ケリケラは泣き止まず、それ以上言葉にならない。
「死体か」「お兄様!!」
リコルが再び怒られる。
「馬鹿。俺はな、皆が口にしたくない事実を代わりにだな………」
「別に………全部が全部言わなくてもいいのに」「ぐっ」
さすがのカレンも目を細めて侮蔑の視線をリコルに送り、彼を黙らせた。
「とにかく、行ってみましょう。ケリケラさん、案内してください」
マキが勇気を振り絞って声を上げ、全員から了承を得ると馬や馬車を停め置き、そのまま歩き始める。
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