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「ゲンテと言っても、今や交易どころか、交流すら絶えかけている街だぞ。戻るなら西しかない。時間はかかるが、そっちの方が安全だ。一度戻って、またもう一度ここに来ればいい」
「でも、それじゃぁ日が変わっちゃうよ」
ケリケラが今日にこだわる。
「まぁ、この顔ぶれで野党に負けるとは思いませんけど」
元勇者とその妹、魔王軍の元親衛隊長と魔王と契約した有翼種。騎士団に昇格したカレンが、知らずに襲う者達の方が哀れだと笑って見せた。
だがリコルは問題はそれだけじゃないと、真面目な顔で返してくる。
「いいか? 野営するにもここじゃぁ風が強すぎて駄目だ。火は消える、食事に砂が入る、地面は硬い、布の類も明日にはなくなってるぞ」
爪先で地面を小突きながら、周囲の知っている音とは異なる音をあえて聞かせる。
寝ている間に砂を鼻から食べたいのならと、リコルが最後に付け加える時には、誰も何も言えなくなっていた。元勇者とはいえ、その前は冒険者として生きてきただけあり、彼の説得力は強かった。
「仕方ありません、少し離れたところで野営して様子を見ましょう」
コルティが決断する。
周囲もその決定に頷くと、リコルは後頭部を掻きながら突き刺さった剣に近付いていく。
「とりあえず、大魔王には約束通りここにいたと言うためにも、この剣は持っていこうか」「え、ちょっ!」
ケリケラが声を上げた。
リコルの動きが止まり、渋々と振り返る。
「何だ?」
「いや、絶対呪われていると思うんだけど」
ケリケラが眉をひそめ、触らない方が良いと暗に訴える。
彼女なりの注意だったが、リコルはその心配を鼻で笑い、親指で自分を指しながら胸を張った。
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