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春といえば桜。
季節味のジュース[春の味のジュース]と書かれたチラシに惹かれ、気づけば店を予約していた。
季節味のジュースとは桜の味がするさぞ素敵なジュースなんだろう、と期待に胸を膨らませ予約した日を待っていた。
ここまで来て緊張するとは何事か。この店に着いて数分。先ほど時間通りに到着した自分を店の前でじっと待つ店長を見て、どこからか緊張感が湧いて来た。
店内はアンティーク調の家具を集めた物静かな空間だった。
この店のメニューは、季節味のジュース。それからシンプルな甘すぎないシフォンケーキ。この二つのセットだけだ。
店長は奥にある椅子を指すと、どうぞと声をかけてくれた。明るすぎず暗すぎない空間に忙しなく目線を走らせる。この店には時計がない。客に時間を気にせずに過ごしてほしいのかもしれない、なんて考えているうちに季節味のジュースとシフォンケーキが運ばれて来たようだ。
お待たせしました、とジュースをケーキを丁寧に机に並べる店長は、落ち着いた雰囲気を醸し出していて、いかにもこの店の店長のようだった。
季節味のジュース、今なら春の味のジュースだ。グラスの上の方はまさに桜色、下の方は透明感のある薄紫をしていた。
ひとくち、味わう
春といえば桜というのは日本独特の考え方だ。春の味とは、桜の味。誰が言ったのだろうか。これは桜の花びらでも桜の葉の風味でもない。まるではるかぜのような味がする。爽やかで優しい、甘さ控えめな自然の味だ。
この日私は特別なものに出会えた。一生忘れることのない春の味。
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