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雪と別れて心に穴が開くという言葉の意味を身をもって実感している。
いくら後悔しても、雪の隣に大島がいるならオレの入る隙はもうないだろう。
それでも、時は流れていくし生活をしていかなくてはいけない。
そして、仕事は相変わらず忙しい。
営業部のあるフロアーの廊下を歩いていると目の前にオレが傷つけてしまった大切な人が立っていた。
給湯室の声がかすかに聞えてくる、近づくとたしかに空気孔から声が漏れてきて夜であればかなり響いたのだろうと改めて後悔の念がもたげてきた。
給湯室の前に立ち尽くす雪は手を強く握り何かを堪えているように見え、空気孔からの声に集中した。
「なんかぁ〜豊田さんが秘書課の大島さんと浮気をしたらしいよ、それで北山さんが怒って別れったって」
「うそっ!大島さんって年下だよね?」
「大島さんって女関係で飛ばされて来たって言われてるでしょ、セフレの一人として豊田さんを誘ったら豊田さんが本気になったっていう話みたい」
「わたしも大島さんに誘われたらついて行っちゃうかも」
「でも大島さんに遊ばれて北山さんに捨てられるとか惨めだよね」
一体、どうなったらこんな話になるんだ?
明らかな悪意だ、それも雪を狙った。
固まっている雪の肩をポンと叩いてから給湯室に勢いよく入ると、営業部の事務をしている二人のスタッフが「「あっ」」と声を漏らしてから気まずそうな表情になった。
「そのしょうもないデマって誰が流してんの?」
オレの表情から怒りの感情を読み取ったらしい彼女達は「えっと、その」「誰かは・・」と曖昧な返事をする。
「だったら、くだらない作り話を流布して豊田さんや大島の名誉を著しく毀損したということで人事課へ報告するよ」
血の気が抜けるとはこういう状況を言うのだろうと思うほど、二人の顔は真っ青になっている。
「すみません、そんなつもりは無くて」
「そんなつもりは無いって、君たちが話している内容は聞くに堪えないくらいの話だし、ここの声は空気孔から廊下にダダ漏れなんだよ、内緒話どころか拡声しているレベルだ。君たちを人事に話すから覚悟したほうがいい」
オレの剣幕もさることながら、さすがに人事課に報告されることは怖いのか、二人は肩を寄せて震えだしお互いの顔を見合わせると同時に頷いた。
「宮澤さんが総務の佐藤さんから聞いた話だって・・・」
「そう、せっかくだから真相を教えてあげるよ。オレが浮気をして雪と別れる事になった。その辺の事情は宮澤さんがよ~くわかってるはずだから」
「「えっ」」二人は何かを察したらしく声を驚きの声を漏らした。
給湯室をでると雪が驚いた表情でオレを見つめている。
「別れた後まで傷つけてゴメン、またいつか一緒に酒が飲めるようになるといいな」
「それはもう無いかな」そう言ってから優しく微笑むと「ありがとう」と言って給湯室の前をまっすぐ前をみて通り過ぎていった。
給湯室からは「「ひいっ」」という声が空気孔から漏れていた。
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