初めての神戸

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 彼女が下りたのは神戸駅だった。その身なりからして、旅行とはほど遠い。小学生高学年くらいだろうか? 長めの髪は後ろで一つ結びだが、艶はない。長袖のはずのTシャツは寸足らず、袖から覗く腕はまるで細い枝のようで、強く握れば折れてしまいそうだ。 「異人館……」  その彼女はそうつぶやいて、辺りを見回す。けれどそんなものは見えず、構内にあったパンフレットを手にした。 「三ノ宮?」  そう、神戸の中心は神戸駅ではなく三ノ宮なのだ。彼女は手の中の小銭を握りしめて、また電車に乗った。先ほどのパンフレットは穴が開くほど眺めた。  北野異人館には徒歩で行けるらしいという情報に、ホッとしながら駅を出る。けれどそれもつかの間、飛び込んでくる景色に彼女は驚いた。  神戸と言えばもっと洗練されたモノを想像していたのに、立ち並ぶ建物も見える景色もそれにはほど遠い。それでも目的地までの道は分かりやすく、彼女は足を動かした。
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