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 一気に言い募った星野に、彼女は目をきょとんと見開き、戸惑っている。あまりの早口に面食らっているのと、内容がいきなり過ぎたのではないかと思われた。 「──お客さま。申し訳ありません。今勤務中ですので、個人的なお約束は出来ません」  最初は戸惑っていたものの、彼女は少ししてから断りの文言を口にした。あくまでも笑顔は絶やさずに、しかしはっきりと。 「ですよねですよね。あの俺仕事が終わるまで待ってても良いですか。迷惑ですか」 「お客さま……」  めげない星野に、彼女も再び困ったような顔をしている。ああこれは脈がない。この微妙な空気をどうにかしなければと、僕が割って入った。 「ごめんなさい、ちょっとこいつ酔ってるのかな? はは、気にしないでください。ほんとごめんなさい」 「いえ……」  曖昧に笑った彼女はそそくさと僕達のテーブルから離れていった。  重苦しい沈黙が襲う。 「やっぱ……駄目か。そうだよないきなり駄目だよな。お前の言う通り、お友達から始めたら良かったんだ。俺って駄目な奴だよな。ああ、さっき買ったこのハンカチはお前にやるよ」 「いやいらんて」 「俺が持ってたところで何の役にも立たないんだあ!」 「おい星野騒ぐな」  困った男だ。  仕方なく僕達は肉を黙々と焼き、なんだか気まずい空気のまま店を出た。 「お前に……やる」 「だから、いらんて」 「お前に持ってて欲しい。俺の気持ちだ」  気持ちと言われても。どんだけ落ち込んでいるんだこの男は。  外へ出れば美しい月夜だった。 「星野。ほら見ろ。綺麗な……月だな」 「まじか」 「まじまじ。見えるだろ」 「じゃねえよ。お前今俺のこと好きって?」 「──ホワイ?」  言われてから確か、「I love you」を「月が綺麗ですね」と夏目漱石が訳したというエピソードを、ふいに思い出す。 「もう俺……お前でもいいかも」 「いやいやちょっと待て。そういう意味じゃ……」 「俺と付き合ってくれ。考えてみたら、お前が一番気心が知れてるし、俺のことよくわかってる。こんなに良い恋人他にいるだろうかいやいない」 「待てまてマテ」  ──馬鹿みたいな話だけど、これが僕達の馴れ初めだ。こんなきっかけだったけど、152番目の恋はなんとか幸せにやっている。  人生何が起こるか、わからない。 終
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