1 帰路にて

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1 帰路にて

「ねえパパ」色づく山々を満喫したハイキングからの帰り道、9歳になる娘がぽつりとつぶやいた。「ママにはもう二度と会えないのかな」  妻は2か月前に交通事故で亡くなっている。さんざんかすみには言ってきかせたはずなのだが。「何度もそう言ったじゃないか」 「でもママにはまた会えるって聞いたもん。真奈ちゃんのママがそう言ってたもん」  詳しく聞いてみると、友だちの母親が生まれ変わりなどというたわごとを吹き込んだようだった。困ったものだ。たとえ娘を元気づけようという意図があるにせよ、これは容認しがたい。教育は厳密に自然科学に基づくべきであり、それ以外の思想はあまねくジャンクである。  とはいえわたし自身、頭から否定しているだけで生まれ変わりの確固たる非存在証明をしたわけではない。どれほど突拍子のない仮説でも検証してみるのが科学的な態度というものだ  ザックを下ろし、登山道のど真ん中で紙と鉛筆を取り出した。「ちょっと待ってなさい。いま検証してみるから」
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