2 生まれ変わりの科学的検証

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2 生まれ変わりの科学的検証

 生まれ変わりを科学するにあたり、まずは作用機序を確定させねばならない。ここでわたしは死後に魂が天国へ召され、次の生を待つというありそうもない俗説より説得力のある理論を提供したい。  まずは脳の計算能力から見ていく。  脳内の神経細胞 およそ1,000億個 ……①  大脳のシナプス数 およそ125兆 ……②  ①、②の連結状態を1秒間シミュレートするのにペタフロップス級の演算能力を誇るスーパーコンピュータ〈京〉が5分以上もの時間を要したという事例から、脳は宇宙最大の計算機であると結論できる。  次に生まれ変わりをどう考えるかであるが、要するに伴侶が生きていればよい。とはいえかすみの母親を生き返らせるには熱力学の第二法則を破らねばならない。この時点で議論を打ち切るべきなのだが、一縷の望みに賭けて続けてみよう。  火葬された肉体は大部分が燃焼して熱エネルギーへ変換され、空間に散逸している。これらが再び凝集して一人の人間に組み上がり、さらに生前と同様に稼働するにはエントロピーの大幅な減少をともなわねばならない。  S=k logW  これをどう覆すのか? よく数式を眺めてみてほしい。結局はWの取りうる値が減ればいいわけだ。  量子論の多元宇宙解釈によれば、事象は観測されるたびに分岐しているのだという。これは1秒ごとに無限個の宇宙が誕生していることを意味する。そのなかには(事実上0に近いけれども)Wの値がごくわずかに減少する宇宙もあるはずだ。そうした宇宙を連続で観測できればいずれ妻の生きている世界に到達できるだろう。  これは一見不可能のように思えるけれども、ここでペンローズの量子脳仮説が真価を発揮する。  脳が量子コンピュータ並みの演算力を有しているのは①、②から明らかである。さらに宇宙が無数にあるのだとしたら、それらを並列接続してエントロピーの減少する宇宙へ現実が収束するよう働きかければよい。ここまでくれば、あとは無限の計算力を結集するだけだ。  わたしは念じてみた。〈!〉  もちろんなにも起こらなかった。
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