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餃子
鈴木は玄関ドアを閉めて矢野の言う言葉を思い出す。
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『鈴木さん、あの時は……すみませんでした』
『酷い事をしたと反省していました。本当にすみませんでした』
『ずっと謝りたくて……』
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"本当かなぁ"と思ったりもする。
でも矢野の言うようにここにいる限り気まずいままと言うのも嫌だし、この先怯えながら生活するのも嫌だなぁと思い、信じる事にした。
【"若気の至り"と言う言葉があるくらいだ。きっと本当はいい青年なんだ。きっと……】
「嫌な事はもう忘れよう……。さて餃子だし皮作りから始めよう」
鈴木はスーツを脱いで軽装になり、エプロンを装着するとボールを取り出した。
19時頃、矢野が窓を開けて煙草を吸っていると何処からか香ばしい、いい匂いがした。
「餃子?」
クンクンと鼻で匂いを嗅ぎつつ"腹減ったなぁ"と思っているとピンポンとインターホンの音がした。
「誰だ?」
ドアを開けたら誰も居ないが一瞬エプロンをした鈴木が自室に入って行く後ろ姿がチラッと見えた。
ドアの向こうからいい匂いがし、一旦廊下に出ると外側のドアノブに何かが入った白いビニール袋が掛かっている。
「……何だ?」
部屋に持ち帰ると早速中を覗く。
中には使い捨ての蓋付き透明トレイに焼きたての餃子が20個ほどにタレらしきものの入った大きめの醤油差し。
外に割り箸が共に輪ゴムで止めて添えられていた。
付箋が表に貼られている。
[もし良かったら食べてね 鈴木]
と書いてある。
「え、俺に?」
鈴木は玄関ドアを閉め、矢野の事を信じてはいるが顔を合わすのはちょっとまだ怖い気持ちもあり、ドアノブに掛けて逃げて来た。
もう一度、ドアを開けて矢野の部屋のドアを見るとドアノブに引っ掛けておいたビニール袋が無くなっている。
"気付いたんだな"とホッとした。
つい間宮の事を考えていて作り過ぎた餃子のおすそ分け。
その程度の気持ちだった。
「鈴木さん」
間宮の声に廊下を見るとちょうどカネの階段を上がって来たところだった。
「お帰りなさい、間宮くん」
「ただいま、鈴木さん。んーいい匂い。早く食いたいです。着替えてきますね?」
「うん、待ってるね?」
餃子の匂いにグゥゥと腹が鳴ったので矢野は冷蔵庫から缶ビールを取り出すとテーブルで餃子のトレイの蓋を開けた。
ボリュームたっぷりの羽根付き餃子。見た目の焼き加減も完璧だった。
小皿に醤油差しに入ったタレを入れ、特に気にせず餃子を1つ箸で摘んで口に入れる。
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