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何だよ、畜生
「うまっ。……ええ?!」
もう一度餃子を見る。皮は手作りの外はパリッとしながらも中がモチモチで中身の具の配分も絶妙なバランスだ。
グッとビールを飲み、再び餃子を口にする。
「あのオッサンが作ったのか?これ。美味すぎねぇ?」
矢野は赤くなった。
「オッサンの癖に料理が美味いとか……。反則だろ」
【それに自分の事を犯し、それをネタに便所扱いにした男にちょっと謝ったくらいでこんなもんくれるし……。気、許し過ぎ】
「何だよ、畜生」
八木はますます鈴木の事を手に入れたくなった。
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「……どうだい?」
「鈴木さん、回鍋肉も餃子も名店並に美味すぎなんですけど。もう作れないものないんじゃないですか?」
「あるよ?作れないもの」
「え、なになに?」
「食べた事がないもの」
「……それはそうだ」
間宮と鈴木はフフフと笑う。
「流石に今日はキス出来そうにないなぁ」
「……どうして?」
「だって」
間宮が自分の手にハァーッとして匂って"ウッ"という顔をすると、鈴木が下を向き赤くなりながら小さな声で「僕も食べたから一緒だよ?」と言った。
間宮が鈴木の隣にやって来てその唇にチュッとして見つめると鈴木が唇を開き間宮は舌を絡め深く口付けた。
唇を離すと鈴木が「今度はニンニク抜きの餃子にするよ」と苦笑した。
いつものように2人は玄関で待ち合わせをし、銭湯へ向かう。
カネの階段を下りて並んで歩く2人の姿を矢野が玄関を少し開けて見ていた。
相変わらずの2人にチッと舌打ちをする。
ここで今までのようについて行って一緒に銭湯に行ってしまうとまた警戒されてはいけないとグッと我慢をした。
鈴木も浴場に入るとつい矢野の存在を探してしまう。
居ない事にホッとした。
「鈴木さん?どうしたの?」
「ううん、何でもないよ?」
鈴木は"やっぱり矢野くん、改心したんだな"と安心した。
それからは鈴木がベランダで洗濯物を干していると矢野は仕事が休みなのかベランダ越しに「おはようございます」と挨拶をしてきたり「餃子のお礼」とビールを鈴木と同じようにビニール袋に入れてドアノブに引っ掛けて差し入れてくれたりと焦らずじっくりと鈴木の警戒心を解いて行く。
案の定、鈴木自身も矢野の前で普通に接する事が出来るようになっていた。
ある日、忙しいのか間宮から特にリクエストが無かった日に鈴木は仕事帰りのスーパーで買い物カゴを手に"何にしようかなぁ"と考えていたら、矢野に声を掛けられた。
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