コイツの男は

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コイツの男は

「こんにちは。仕事終わりですか?」 「あ……矢野くん、こんにちは。うん、そうなんだ。矢野くんも仕事帰り?」 「はい。夕飯に何か惣菜でもと思って……。そしたら鈴木さんを見かけたのでつい声を掛けてしまいました」 「お仕事、お疲れ様。お惣菜を買って帰るのかい?……そうだ。矢野くんて食べたいものってある?」 「俺ですか?そうだなぁ……」 【アンタが食いたい】 という言葉は飲み込んで「生姜焼きが食いたいです」と答えた。 「生姜焼き……。じゃあそうしよう」 「え?鈴木さん、作ってくれるんですか?」 「うん。僕ので良ければ。ちょうど夕飯のメニューを何にしようか悩んでいたんだ」 「やったね」 【生姜焼きなら間宮くんもきっと好きだろう……】 鈴木は材料を買ってマイバッグを手に持つと「俺、持ちます」と矢野が持ってくれた。 「悪いね?」 「いいっすよ。鈴木さんに作ってもらえるんですから」 2人は並んでアパートの方向へ歩いていく。それをゲームセンターから出て来た康太が偶然目撃した。 「何だ?あれ。……どういう事だ?」 矢野がこの間の餃子が物凄く美味しかった話を鈴木にしていると、康太に腕を掴まれ矢野は驚いた。 「おい、お前っ」 見るとあの時自分をボコッた男。しかしその姿は学生服だった。 「が、学生?!」 「こ……康太。手、離しなさい。ごめんね?矢野くん……」 【コイツ、高校生かよっ。でけぇからてっきり同じくらいかと……。ガキに俺、ぶっとばされたのかよ】 康太は眉を顰めながら矢野の顔を見る。 「お前まだコイツの周り、チョロついてんのかよ。シバくぞ」 「こ……康太。も、もう大丈夫だから。矢野くんはもうそんなじゃないから……」 「そんなじゃないって何がだよ。てめぇ、コイツに変な事されてたの忘れてんじゃねぇ!」 矢野は"せっかくオッサンが忘れかけてんのによ"と心の中で舌打ちをする。 「も……もう止めて。本当にそんなんじゃないから」 思い出したのか、鈴木は顔を赤らめながら康太を制する。 「てめぇがそんなじゃ……。何かあってももう俺は知らねぇぞ」 康太は鈴木を睨んで友達の所へ戻っていく。 「矢野くん……、ご……ごめんね?」 「い、いえ。彼ってその……鈴木さんの何ですか?」 「息子……なんだ。妻の連れ子だから血は繋がってはいないんだけど……」 「へぇ。息子さんなんですか」 【何だ、息子かよ。って事はやっぱり間宮がコイツの……男】 間宮の無駄にイケメン顔を思い浮かべる。 【アイツがオッサンの体を自由にしてるって事か。くそっ】
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