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あの男は……
「康太が知らせてくれたから良かったものの。当の本人がそれじゃあ守ろうにも守り切れません」
「矢野くん、謝って……くれたんだ。酷い事をしたって。反省してるって。僕も初めは疑っていたけれど荷物を持ってくれたり、挨拶してくれたり……」
「俺だってしますよ。鈴木さんを手に入れたいならそのくらいの事……します」
「……」
「あの男は危険です。俺には分かる」
【アイツの鈴木さんを見る目付き……。あの時と何ら変わっていない】
「鈴木さん」
「……ごめんね?もう行かないよ」
「そうして下さい」
鈴木が間宮に抱きつくと間宮がその髪に触れ愛おしいというふうに撫でた。
その時、時間に正確な間宮の腹の虫がグゥゥと鳴りやはり2人は見つめ合うとフフフと笑った。
「鈴木さん、今日の夕飯は何ですか?」
「今日はねぇ、生姜焼きだよ?あときんぴらごぼうにほうれん草の胡麻和え、そして茄子のお味噌汁」
「美味そうです」
「直ぐに準備するから着替えてから来てね」
「はい」
そんな会話を矢野が壁に耳を当てて聞いていた。
「くそっ、この方法はもう使えねぇ」
イラつきながらつい何気にコーヒーを口にした。
「あ……ヤバっ。自分が飲んじまった」
その後、矢野が鈴木を想いながら薬が抜けるまで死ぬほどマスを掻きまくった事は言うまでもない。
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『あの男は危険です。俺には分かる』
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鈴木は職員室で間宮の言葉を思い出し、フゥと溜息をつく。
【矢野くんには悪いけど、間宮くんがああ言うんだ。少し付き合いに距離を置かせてもらおう……】
目の前で物思いにふける鈴木を体育教師の伊田がじっと見る。
最近の鈴木は間宮に抱かれているせいか、前よりも一層憂いを帯びていた。
一般の人間には分からないが見る人が見ればそう見える。
伊田から見てもそう見えた。
【相変わらずエロい顔……しやがって】
鈴木は次の授業が無い為にテストのプリントを作成しており伊田も同じようにデスクワークをしていた。
鈴木は集中しているせいか職員室で伊田と2人きりだと言う事に気付いていない。
鈴木を見ているとノートPCに対して人差し指で押しているのかキーボードを叩く音がぎこちない。
伏せ目がちな眼鏡越しの瞳に時折押し間違えるのか「あ……」とか「え?」とか言っている。
【くそ可愛いんだが……】
伊田がそんな鈴木の前で軽快にキーボードを叩く。
そんな伊田を見て「伊田先生、流石ですね」と鈴木が言った。
「流石……とは?」
「いやぁ、打つの早くて……羨ましいよ」
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