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迎えに行く
「もしこの先、アイツに捨てられる……なんて事が万が一あったら、俺がお前を迎えに行ってもいいか?」
「……」
「迎えに……行く」
間宮には「負けたよ」と言ったが、きっとそうなると久城は見越していた。
1度は初めて知る男の体に溺れ、そしてある時ふと"このままではいけない"と"軌道修正をしなければ"と思う。
周りが女性と結婚し所帯を持ち始めると気が焦り、それはどうしようもない事なのかもしれない。
1度は鈴木の事を諦めようとしたが、体育教師に何かされている鈴木を見てやはり諦められない。
間宮が鈴木を幸せに出来ないのなら俺が幸せにしたい。
今度こそ。
今の俺にならそれが出来る。
「す……すみません、そこで……。その駅前で降ろして?買い物に行くから」
久城はハザードを炊き車を路肩に寄せて停めると鈴木が車から降りて久城を見て頭を下げた。
そして歩いていく鈴木に窓を開け、久城が言った。
「覚えておいてくれ。その時は俺がお前を迎えに行くと」
鈴木は一瞬足を止めたが振り返らずに鞄を肩に掛けてスーパーの方へ歩く。
そんな鈴木を見送りながら久城はドアに凭れた。
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鈴木はスーパーの中で買い物カゴを手に持ち、売り場をうろつきながら久城の言った言葉を思い出す。
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『お前は分かっているんだろう?"ノーマル"な彼がいつまでも自分の傍に居てくれるとは限らない事を』
『そのうち世間体を考えだし、彼は時期が来たら女性の元へ行くだろう。まさに俺がそうしたように』
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鈴木は手にしたジャガイモをギュッと握る。
分かっている。こんな日々がいつまでも続く訳がないと……
【それでも……間宮くんの傍に居たい。居たいんだ】
崇との事なんて考えられない。
【間宮くんが僕との"別れ"を考える時まで……一緒に居させて】
鈴木は買い物を済ませてカネの階段を上がると間宮の部屋の前に1人の中年の男性が立っていた。
【誰だろう……】
前を通る時に鈴木が会釈をすると男性がチラッとこちらを見てし返してきた。
その顔を見て鈴木は「あ……」と思う。
間宮と面差しのよく似た男性。
自室の前で勇気を出して声を掛けてみた。
「もしかして間宮くんのお父上ではありませんか?」
鈴木の声掛けに驚いた顔をして振り返る。
「ええ。貴方は……?壮太の……」
「"隣人"の鈴木太郎と申します。間宮くんとは仲良くさせて頂いていて」
「そうですか。いつも壮太がお世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
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