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別れの日
「すみません、ご親切にお茶まで頂きまして」
「いえいえ」
「それでは失礼致します」
鈴木は礼をする間宮父に頭を下げた。ガチャンと閉まるドアの音ーーー
外では鈴木の部屋から出てきた父親に間宮が驚いている声がする。
「え、何で親父、鈴木さんちに?」
「お前を待っていたらコーヒーをご馳走して下さってな?お前からも後で礼を言っておいてくれ」
「あー、うん」
2人は間宮の部屋に入っていく。
鈴木は暫くミニテーブルの前に正座していたが「さて」と立ち上がり、軽装に着替えるとガラケーを鞄から取り出して間宮にメールを打つ。
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お仕事、お疲れ様です。
今日は、間宮くんのお父上が、来ているようなの手、夕飯作りと銭湯は、遠慮しておくよ
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間宮はそれを見ると「"なので"が"なの手"になってる」とフフッと笑った。
「どうした?」
「いーや、何でも?親父、腹減った。外で飯食おうぜ?その後銭湯に行こう。ここ風呂ないし」
「ああ」
鈴木は長い間、戸棚で眠っていた康太の間食用に購入していたカップラーメンを取り出すと手鍋に水を入れガス台に火をつけた。
「そう言えばカップラーメンなんて何ヶ月ぶりかな?間宮くんが越してきてから夕飯作りが楽しくて随分前から食べてなかったなぁ」
康太も間宮と鈴木が恋仲になってからてんで家に近寄らなくなってしまっていた。
お湯が湧きラーメンに湯を注ぐと箸を用意してテーブルの前で体育座りでじっとする。
その時、間宮からメールの返信が来た。
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父親が世話になったみたいですみません。
父親が帰ったらまた連絡しますね?
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「ふっ…… うっ……」
この先何が待っているのかを知らない間宮の返事に何だか時間差で涙が溢れてきた。
【とうとう来てしまった。間宮くんとの別れの日が……。楽しかった時間ももうすぐ終わる】
分かっていた。分かっていたのに……。
こういう瞬間は今まででも何度でも経験してきた。
経験してきたはずなのに……。
何度も経験しても慣れない。
特に今回のダメージはかなりオジサンの鈴木にはきつかった。
呼吸困難になりフゥ……と息を吐く。
ガラケーの履歴から康太の電話番号を見つける。
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『"助けてくれ"って言ったろ?俺に助けてほしいんじゃねぇのかよ?違うのか?だったら何で俺を呼んだ?』
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【ダメ……。もう康太を頼れない】
かける事もなくその手はダランと畳に垂れた。
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