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知ってほしい
間宮が片肘をテーブルについて父親を見ると目を見開いている。
「いやいや、あの人は"男の人"だろ。しかも随分お前よりも年上で……」
「そうだけど、鈴木さんは俺にとっては"大事な人"なんだよ。そんな人にこんなもん見せやがって。罪な事してくれるよ」
「……待て待て、お前何か間違ってるぞ?お前昔から"そっち"だったか?」
実家に居た頃の間宮の部屋には確か巨乳女性のグラビアの写真集がいくつかあった事を父親は思い返す。
「んー、俺もよく分かんないんだけど、"鈴木さん限定"かなぁ?参考にゲイ動画、観てみたけど何か違った」
間宮は店員に「すみませーん、ビール追加で」と注文する。
父親は改めて鈴木を思い返していた。
髭面の気の弱そうな眼鏡の男性ーーー
「母さんには何て説明するんだ」
「別に普通に「恋人です」って紹介する。兄貴達にもな?今こうして親父に話してる感じで……」
「……」
間宮は店員が持って来たビールに口を付けながらチラッと父親を見た。
「間宮家の血筋は兄貴達夫婦が守ってくれてるし、俺が"男の人が好き"でも問題ないでしょ」
「まぁ、孫は4人も居るが……」
「え?!まさか親父、今時反対とかしないよな?」
「……まだちょっと信じられん」
父親はビールをグゥゥゥっと空けた。間宮が「すみませーん、もう1つビール追加で」とオーダーする。
「親父も"見た目"だけじゃなくてもっと鈴木さんの事を知ったらきっと納得するよ。なぁ、明日朝帰るんじゃなくてさぁ、夜まで居ろよ。明日3人で一緒に夕飯食おうぜ?」
「……」
「鈴木さんの事親父にちゃんと紹介したい。知ってほしい。それに鈴木さんの飯、死ぬほど美味いんだぜ?」
「……うーん」
「親父がこーんな写真見せたから今頃不安で泣いてるかも。せっかく俺達、うまくいってるのに。責任……とれよ」
間宮は唇を尖らせてそう言う。
「……」
「いいよな?」
「……ああ」
「決まりっ。早速鈴木さんに連絡入れとこう。きっと心配してる」
間宮は店から1度出て鈴木の携帯に電話をするが出なかった。
「あれ?鈴木さん、風呂かなぁ。また携帯置いて行ってる?」
間宮は"だからそれ、携帯の意味ないって"とフフッと笑った。
「まぁ後で直接言えばいいか。顔を合わせての方がきっと安心するはず」
鈴木の顔を思い出し"やっぱ鈴木さんの飯が食いたかったなぁ"と思った。
そして"鈴木さんの事を父親に話せて良かった"……とも思った。
そう言えば、朝の出勤以来、鈴木と顔を合わせていない。
「会いたいなぁ」
間宮はそう言うと携帯をポケットにしまい店内に戻って行った。
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