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チャンス
その頃、鈴木は1人重い足取りで銭湯へ向かっていた。その少し後ろに矢野の姿。
「何で今日は間宮、居ないんだ?まぁチャンスだけどね」
鈴木がカネの階段を下りて行く足音で矢野はいつものように玄関ドアを少し開けてその姿を見た。
しかし、いつも居るはずの間宮が鈴木の隣に居ない。
慌てて洗面道具と着替えを手に持ち、例のダチの男に電話をした。
念入りに打ち合わせをしながら鈴木の後をついて行く。
何も知らない鈴木は浴場で頭からタオルを被り、湯船に浸かっていると「鈴木さん」と言う声ーーー
振り返ると矢野だった。
その顔は何だか元気がなく、更に矢野に会った事で目線は伏せ目がちだ。
露骨に"会いたくなかった"という顔をする鈴木にやはり矢野は心の中でチッと舌打ちをする。
「偶然ですねぇ。今日は……間宮くんは一緒じゃないんですか?」
鈴木はチラッと矢野を見る。
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『あの男は危険です。俺には分かる』
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間宮の言葉を思い出し、鈴木は矢野に警戒をする。
「間宮くんは今日、お父上が来ていてね」
「へぇ、そうなんですね?じゃあ鈴木さん1人ですか?ならご一緒していいですか?」
「え……。うん」
【これだけ人が居るんだ。きっと大丈夫】
鈴木はシャワーの前まで歩くと椅子に座る。すると同じように矢野が間宮のように隣に座った。
「背中流しますよ。いつも間宮くんがしてたでしょ?」
「い……いい。自分でするから」
「遠慮しないで。貸して?」
スポンジを奪われ、後ろを向けと促され仕方なく後ろを向いた。
鈴木の背中を擦りながら矢野が首の辺りに顔を近づけフゥ……と息をかけるとビクッとし、困ったように振り返る鈴木にゾクッとする。
チラチラ見える乳首にもむしゃぶりつきたくなるが我慢した。
「俺もしてもらってもいいですか?」
「あ……うん」
鈴木は間宮にするように矢野の背中をスポンジで擦った。
まるで間宮の位置を奪ってやったような気分になり、矢野はニッと笑う。
その後2人で並んで体を洗い、湯船に浸かった。
その間もくだらない話をペラペラ話している矢野を差し置き、鈴木は間宮の事を考える。
今頃、お見合いの話を聞いているのだろうと考えると胸がギュウウッと痛くなった。
「お先に」
鈴木はそう矢野に言って早々に脱衣場で着替えると矢野から逃げるように銭湯から出た。
体を拭きながら矢野がダチの男に電話をする。
「今、出たわ」
鈴木がいつもの道をアパートへ向けて歩いていると数人の男達が街灯付近にたむろっていた。
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