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俺にして下さい
【嫌だ。知られたくない】
鈴木は矢野の背中に顔を埋めた。
矢野はそれを察知してちょっとした路地に身を隠す。
間宮親子はそれに気付く事なくその前を通り過ぎて行った。
「鈴木さん、もう行きましたよ?」
「……ありがとう」
「さ、帰りましょう」
「う……ん」
何があったのか知られるのも嫌だったが、矢野の事を"危険だ"と言う間宮に矢野にこうしておんぶしてもらっている事が知れるのも正直いやだった。
「鈴木さん、着きましたよ?」
鈴木がいいと言うのに、鈴木をおんぶしたままカネの階段を上がり、矢野の息がハァハァと上がっていた。
「今日は……助けてくれてありがとう。だ……大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも」
「……え?」
矢野が鈴木をじっと切なく見つめる。鈴木はその事に気付き、目を伏せた。
「部屋に……入れてくれないんですか?」
「……だめ」
「……そうですか。やっぱり俺の事、警戒……してるんだ?あんな事……してしまったから」
【矢野くん……】
「……ごめんね?」
「仕方ないですよね。それだけの事をしてしまったんですから……」
「ごめんなさい」
「じゃあまた」
「……うん。また」
鈴木は鍵を開けると部屋の中へ入る。振り向いて鍵をかけようとした時にそのドアがガッと開いた。
【え……?】
「鈴木さんっ!」
「あ……」
矢野が鈴木に抱きついてき、2人はその場に倒れ込んだ。
「や……矢野くん、止めて?だ、だめ……」
「好きなんです、鈴木さんっ。貴方の事が好きなんだ」
鈴木はカッと目を見開く。
「他の奴等に乱暴されている貴方を見て、もういても立ってもいられなくて……。間宮の事なんか忘れて俺にしませんか?」
「え……?」
「俺にして下さい、鈴木さんっ」
見つめられ呆然とする鈴木の唇に矢野の唇が覆い重なった。
「んんんっ」と鈴木は入って来ようとする矢野の舌を拒み、その体を手で押し退けようとする。
「だ、だめ。だめだ……。んんん」
「鈴木さん……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『ええ、知り合いの親戚のお嬢さんでね?年齢も近いですし、どうだろうと話を頂いたんですよ』
『可愛らしい方ですね。間宮くんに凄くお似合いだ』
『いいご縁になるといいですね?』
『ありがとうございます』
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"ありがとうございます"
鈴木は間宮父の嬉しそうな顔を思い出す。
ふと矢野を押し退けようとしていた手の力が抜けて床に垂れた。
ギュッと噤んだ唇の力も抜けて行く。
矢野は鈴木が完全に自分の事を受け入れたと思い、そんな鈴木の唇を押し開き、舌を差し込みその舌を甘く吸い上げた。
鈴木はグッと目を閉じる。
暗闇の中でチュッチュッと言う音がやけに大きく聞こえた。
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