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目を覚まして
「鈴木さんに会えなかったなぁ。家にも居ないみたいだから、てっきり銭湯だと思ったのに」
溜息をつく間宮を父親が見る。
「お前……。そんなにあの人の事を。……そうか」
「じゃなきゃ親父にあんな事言わないって。……あれ?鈴木さんの部屋のドア……開いてない……か?」
間宮がアパートの下から見上げると鈴木の部屋は真っ暗で電気もついていないのに、玄関のドアが不自然に中途半端に開いていた。
「まさか……」
間宮は嫌な予感がして、カネの階段を駆け上がる。父親はそんな間宮に驚いた。
鈴木の部屋のドアには靴が挟まっており、そのドアを思い切り開けると和室の奥の暗闇の中でうつ伏せの鈴木の上にのしかかって腰を振っている矢野の姿ーーー
「アンタは俺のもんなんだ。俺の……」
そう言って目を閉じている鈴木の肩口にキスをしながらペニスを何度も押し込んでいる。
間宮はキッと矢野を睨みつけ、上がり込んだ。
「お前……何やってんだっ!」
矢野の襟首を引っ掴んで鈴木から引き剥がすとその顔を殴りつける。
父親が駆けつけ、部屋を覗くと2人は狭い部屋の中をゴロゴロと転がりながら掴み合い、殴りあっていた。
「鈴木さんに酷い事しやがって。絶対許さねぇっ」
「うるせぇ、てめぇこそイケメン面してオッサン独り占めしやがって。ムカつくんだよっ」
その奥で力なく裸でうつ伏せで倒れている鈴木に父親が駆け寄って「大丈夫ですか?」と抱き起こす。
鈴木は気を失っているのか真っ青になって目を閉じていた。
下半身は丸出しで思わず着ていた上着を脱ぐと鈴木の下半身に掛けてやる。
父親が振り返り2人を見ると間宮の上に馬乗りになり、矢野が間宮を殴っていた。
父親は矢野の首根っこを引っ掴むと矢野の腕を掴んでおりゃっと背負い投げた。
怯んだ矢野の腕をそのまま捻りあげ、矢野の背中を膝で固定し、その顔を畳に押し付ける。
「畜生。何だよ、アンタ。離せよっ!」
「おい、壮太。警察っ」
「あ、ああ」
間宮が警察を呼んで事情聴取を済ませると矢野は間宮の父親のもと、不法侵入及び暴行容疑でパトカーに引き渡された。
「流石、親父。今でも全然腕が鈍ってねぇ」
「まだまだ若いもんには負けん。それより……」
布団に寝かせている鈴木を2人は心配そうに覗き込む。
間宮は未だに意識の戻らない鈴木の手を握るとその手にキスをして自分のおでこに擦り付ける。
父親はそんな2人に気を利かし「煙草を吸ってくる」と外に出た。
「鈴木さん、1人にしてしまってすみません……」
【貴方を守れなくてすみません……】
間宮は鈴木の髪を優しく撫でる。
「早く目を覚まして下さい、鈴木さん」
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