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捨てないで
「ダメ……。そんなのダメ」
「何がダメなんですか?」
鈴木は下を向いて寝返りをうち、間宮に背中を向ける。
「僕は"男"で、まして間宮くんより"オジ……サン"で……」
「そんなの付き合う前から知ってます」
「……」
「"鈴木さん"は"鈴木さん"……でしょ?ちょっ……こっちちゃんと向いて下さい。俺に背を向けないで?」
鈴木は伏せ目がちに向き直した。
「それとも初めから"別れる"つもりで俺と付き合っていたんですか?俺を……弄んでいたんですか?」
「ち……違うっ。そんな訳ないっ。いっつ……」
ガバッと起き上がり間宮にしがみつくと頭を左右に振り、痛みに後ろ向きに倒れそうになる鈴木の体を間宮が両肩を掴んで支えた。
「じゃあ鈴木さんは俺の事、どう思っているんですか?はっきり言って下さい」
【教えて下さい。貴方の言葉で】
「……き」
「聞こえません。聞こえていません」
「好……」
「鈴木さん?」
鈴木は眉毛を八の字にして涙をポロポロ零し下を向こうとするが、そんな鈴木の顎に間宮が手を添え、その顔を上に向ける。
鈴木は間宮の顔を見た。
いつもの優しい間宮の表情ーーー
「ま……間宮くんがす……好きだ」
「俺も鈴木さんが好きです。愛してます」
「お願い。お見……合いしないで」
「うん、しない」
「別れたく……ない」
「うん、別れない」
「捨て……ないでくれ」
「……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『だから飽きられるとか捨てられるとか……。何でそうマイナス思考で事が運ぶんだよ』
『男と女なら、その先に結婚してガキ作ってって……。人生設計が見えて来るんだろうけど、俺達には"その先"がねぇ。だから普通に抱くだけ抱いて飽きたらポイ……なんてざらにある世界なんだよ。割り切れるんならそれもいいだろう。でもアイツは生粋の"恋愛体質"だ。その度その度に立ち直れないくらいに傷つきやがる』
『前に言ったろ?アイツの"想い"は"重ぇ"って。抱き合っている時はいい。ただ相手が別れを考えた時にアイツの想いは重すぎるんだ。だから酷い捨て方で切られる。……そう言うこった』
『ましてお前は女もイける"ノンケ"だ。不安にもなるわ。いつ女に寝返るか分かんねぇ。男なら先の事を考えて"子孫を残したい"と思う部分もあるだろう。お前はまだ戻れる場所があるだけ余裕ぶっこいてんだろうけど、アイツにはそれがない』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
間宮はいつだったか、康太と公園で話した事を思い出す。
【鈴木さんは俺と居ながらもいつもそんな不安な気持ちで居たんだな……】
「捨てるわけないでしょ?」
「うっ……くっ……」
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