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ご挨拶1
「これが最後の荷物です」
配達業者が受け取りのサインを求めてき、間宮(まみや)はダンボールの数を確認後、全ての伝票にサインをした。
「ご苦労さま」
「失礼しまっす」
間宮は表の配達業者を見送ると奥の畳の8畳間に行き窓を全開にした。
フワッと頬に風が当たる。
「日当たり良好!」
グンッと両手を挙げ、伸びをした。
間宮壮太(まみやそうた)は大学を卒業後、地元の某ハウスメーカーの建築会社に入社し2年ほど営業を経験するとその業績が認められ、この度本社勤務を命ぜられ実家の田舎暮らしから初めてこの地にやってきた。
マンション……とも考えたが、何せ都会は家賃が高い。
駅近と周りに便利な店……例えばクリーニング店やスーパー、商店街等もあり公園も近い実家の雰囲気に似た立地条件、そしてアパートの真ん中の部屋と言う事でミニ冷蔵庫等の家電と収納付き、家賃が両隣よりも5千円安い事が決め手となりこの場所を必然的に選んだ。
1K風呂無しトイレ付の8畳間。
6世帯のアパートの2階のど真ん中ーーー
大家さん情報では、下の3世帯には大学生が入っており2階の両隣にはどうやら同じく社会人が入っているらしい。
「荷物、持ってきすぎたかなぁ。全部入り切るのかぁ?」
ある程度の最低限の持ち物を所定の場所に置くとフゥと溜息をついた。
「流石に布団を置くと狭いなぁ。まぁいっか。ずっとここに居るわけじゃなし。仕事が落ち着いたらまたいい物件があれば引っ越せばいい」
ダンボールから細かな食器等を取り出すと地元の名産品が出てきた。
間宮がいいと言うのに「初めが肝心」と母親が挨拶用に持たせてくれたもの。
「両隣に持ってくか」
間宮は玄関を出ると丁度出てきた左側に住む男と目が合った。
「あ……すみません。この度、隣に引越ししてきた"間宮"……と申します。よろしくお願いします。これつまらない物ですが……」と名産品を差し出した。
すると男は面倒くさそうに「あ、そう。よろしく」と言って頭を掻き掻き受け取ると玄関を開けて今渡した名産品を放り投げるとカネの階段を下りて行く。
「何だ?アイツ……。感じ悪いなぁ」
【やるんじゃなかった】
何ちゃらって言うアニメのTシャツを着、美少女アニメの缶バッジを沢山付けたサコッシュを斜めがけした見るからにオタク要素をたんまり臭わす小太りな男。
その後ろ姿に「これ美味いんだからな?」と小さく中指を立てる。
そして気を取り直して逆の右側へ行くと「まともな奴でありますように」と祈りつつ、インターホンを鳴らした。
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