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ゾロゾロ、ゾロゾロ
私は蟻になった。あいつに殺されて1匹の蟻になった。
ゾロゾロ、ゾロゾロ
俺は蟻になった。あいつに裏切られて蟻に生まれ変わった。
ゾロゾロ、ゾロゾロ
僕は蟻になった。あの人に欺かれ、蟻になった。
ゾロゾロ、ゾロゾロ
あたしは蟻になった。あいつに騙されて、蟻になった。
蟻が歩いて行く。ただ前に広がる暗闇を目ざし、歩いて行く。
1匹は小さい。1匹の歩みは僅か。
けれど蟻達は、長い1本の道になり、長い1本の生きものになり、
やがてその先頭が、穴の入口に辿り着いた。
暗い。見えない、ただ闇だ。
暗い。暗い、その暗闇の中で、でも怖くない。恐れない。
皆がいるから。皆が一緒だから。
ゾロゾロ、ゾロゾロ
蟻達は進む。奥へ、ひたすらに奥へ。
更なる闇は深くなり、足下も頭上もわからない。
でも大丈夫怖くない。皆がいるから、皆が一緒だから。
ふいに目の前に光が射す。
これで思い遺すことは無い。
蟻の群れは天に帰っていった。
「所長、た、大変です!」
独居房。4日後、刑に処されるはずだった男は……。
身体中にみるみる開いた、
夥しき闇。
彼は生きただろう。最期の瞬間を。それはそれは、苦しみ抜いて。
殺められた人達と、その家族の分まで。
(終)
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