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1.月曜日
「どちらまで」
「○○七丁目の交差点までお願いします」
「かしこまりました」
タクシーが静かに走り始める。残暑の九月、車内はクーラーが効いていて快適だった。BGMはFMラジオ。
「運転手さん」
「はい」
「どのくらいで着くでしょうか」
「そうですね・・・少し混んでいますので、十分くらいでしょうか」
「わかりました、お願いします」
運転手は無表情にアクセルを踏み込んだ。彼が言ったとおり道路状況は芳しくなく、タクシーはひどくゆっくりと進んだ。
「運転手さん」
「はい」
「このラジオはFMですか」
「ええ。AMに変えましょうか」
「いえ、大丈夫です。・・・洋楽好きなんですか」
FMラジオから流れていたのは、ディーヴァと名高いアメリカ人女性歌手の歌声だった。
「・・・そうですね、割と好きですが」
「カラオケには行きますか」
「カラオケはしませんね」
「そうですか」
信号が黄色から赤に変わり、タクシーは一時停止した。
「空調・・・少し温度下げてもらっていいですか」
「かしこまりました」
「運転手さん、いつもこのあたり走っているんですか」
「ええ、割とこのあたりを流しています」
「僕、仕事でこのあたりを行き来することが多いんです。この辺あまりタクシーが走っていないので、急いでいるときに大変で・・・」
「・・・電話をいただければ、お迎えにいきますが」
「本当ですか!」
「そこのポケットに、会社の電話番号とアプリのURLがありますので」
「・・・・・・ありがとうございます。運転手さんが来てくれるんですか」
「近くを走っていれば伺います」
「運転手さんがいいんですが」
「名刺営業はしていないんです」
「そうですか・・・」
「アプリを使えば、五分くらいですぐつかまりますよ」
「・・・・・・」
タクシーは青信号で再発進した。途中、のらりくらりと走る赤い軽自動車を追い越して、運転手が言ったとおりほぼ十五分で目的地に到着した。
「○○○○円になります」
「ありがとうございました。・・・アプリ登録してみます」
「そうしてみてください。お気をつけて」
運転手はにっこり笑った。
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