1.月曜日

1/1
79人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

1.月曜日

「どちらまで」 「○○七丁目の交差点までお願いします」 「かしこまりました」 タクシーが静かに走り始める。残暑の九月、車内はクーラーが効いていて快適だった。BGMはFMラジオ。 「運転手さん」 「はい」 「どのくらいで着くでしょうか」 「そうですね・・・少し混んでいますので、十分くらいでしょうか」 「わかりました、お願いします」 運転手は無表情にアクセルを踏み込んだ。彼が言ったとおり道路状況は芳しくなく、タクシーはひどくゆっくりと進んだ。 「運転手さん」 「はい」 「このラジオはFMですか」 「ええ。AMに変えましょうか」 「いえ、大丈夫です。・・・洋楽好きなんですか」 FMラジオから流れていたのは、ディーヴァと名高いアメリカ人女性歌手の歌声だった。 「・・・そうですね、割と好きですが」 「カラオケには行きますか」 「カラオケはしませんね」 「そうですか」 信号が黄色から赤に変わり、タクシーは一時停止した。 「空調・・・少し温度下げてもらっていいですか」 「かしこまりました」 「運転手さん、いつもこのあたり走っているんですか」 「ええ、割とこのあたりを流しています」 「僕、仕事でこのあたりを行き来することが多いんです。この辺あまりタクシーが走っていないので、急いでいるときに大変で・・・」 「・・・電話をいただければ、お迎えにいきますが」 「本当ですか!」 「そこのポケットに、会社の電話番号とアプリのURLがありますので」 「・・・・・・ありがとうございます。運転手さんが来てくれるんですか」 「近くを走っていれば伺います」 「運転手さんがいいんですが」 「名刺営業はしていないんです」 「そうですか・・・」 「アプリを使えば、五分くらいですぐつかまりますよ」 「・・・・・・」 タクシーは青信号で再発進した。途中、のらりくらりと走る赤い軽自動車を追い越して、運転手が言ったとおりほぼ十五分で目的地に到着した。 「○○○○円になります」 「ありがとうございました。・・・アプリ登録してみます」 「そうしてみてください。お気をつけて」 運転手はにっこり笑った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!