油断

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部屋へ戻り、小さな鞄と携帯を手に取る。 いちおう、何があるかわからないから。 護身用に、あの剣も必要よね。 なんて思いつつ、学校に通う為に使う鞄を開けた。 「………………なんで。」 鞄の中を見て絶句する。 いつも以上に真っ赤に染まっていて光っている。 戸惑いながら剣を取り、確かめるように眺めた。 熱い。 訳がわからない。 いったい、どう意味なの? あの男がいないから聞けないし。 諦めるように溜息をついて、小さな鞄の中へ入れる。 携帯と鍵を持ち、玄関へ歩いていき開けた。 眩しい太陽の光に目を細めて外へ出る。 施錠をして、廊下を歩いていき階段を降りる。 やっぱり、誰もいない。 一階の方へ視線を向けて、ほっと胸を撫で下ろした。 涼しい風が吹き、ふわりと髪を靡かせる。 うん、やっぱり、こういうのが好きなのよね。 風の体感を髪で感じるのって気持ちがいいもの。 あまり待たせるのも、マズイから急がなくては。 歩く足を早めながら待ち合わせの場所へ行く。 時折視線は感じてはいたが無視をする。 気にはなってはいたけどね。 さすが日曜日だけあって人が多い。 家族連れや友達同士、恋人や一人の人と様々だ。 中には好奇な眼差しで見てくる人もいたけどね。 待ち合わせ場所へ辿り着き、店内へ入っていく。 がやがや、ざわざわと賑やかな店内の中久瀬さんを探す。 ここのクレープ屋さんは三通りあり、キャンピングカーで販売をして買う人と、店外で並んで買う人、ゆっくり寛ぎたい人に分かれる。 かなりの有名なお店で、人があまりにも多い。 どこだろう、と辺りを見渡す。 「もしかして、長谷川さん?いつもと違う雰囲気でびっくりした。」 声のする方へ振り向く。 私の姿を見た久瀬さんは目を真ん丸くさせている。 「こんにちは。ごめんなさい遅くなってしまって。」 頭を下げようとした時。 「私が無理を言ったから謝らなくて大丈夫。ごめんなさいね、長谷川さん。ね?席に座らない?」 ふと顔を上げると、可愛らしく笑う久瀬さんが見えた。 「先に席は確保しているから。」 くるりと身体の向きを変えて歩く久瀬さんの後を歩いていく。
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