朝ぼらけ

　もしかしたら、目が合うかもしれない。

　などとほんの少しばかり期待している私は、成人しても尚、中身は高校生のままである。彼は隣を歩く男性と言葉を交わしながら、姿を晦ますようにして人混みの中へと溶けてゆく。

「……先生！！」

　心から漏れ出た声が煩雑な空間を切り裂き、駆け巡る。

　しかしながら、私の気持ちは届くこと無く、先生は雑踏の中へと吸い込まれていった。

　自身のもどかしさに拳を握り締め、気付いた時には人々の隙間を縫うようにして風の中を馳せていた。

　入り交じる視界の中で、高校時代の思い出が鮮明に蘇る。