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「好きです」
橙色に染まる教室には、春の暖かさを含む風が吹き込んでいた。私は胸ポケットに付けていた胸章を握り締め、想いを告げる。
恐る恐る瞑っていた瞳を開けると、そこには困惑した表情を浮かべる彼が居た。
「ありがとう。けれど、君の気持ちに応えることはできない」
彼は頬のホクロに触れながら、ゆったりと視線を逸らす。その癖を見た私は「恥ずかしがっているのね」などと何処か楽観的に考えていた。
「じゃあ、20歳になったら私のことを1人の女性として見てくれますか?」
気付いた時には、そんなことを口走っており慌てて口元を覆う。夕陽に溶け込みそうな程、頬が熱を帯びるのを感じる。
思いがけず飛び出した言葉は少しばかり揺れており、胸章を握る手がキリキリと痛んだ。
「その時は……分からないかもな」
曖昧に答えた彼は、少し照れくさそうに再び頬のホクロに触れたのだった。
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