朝ぼらけ

4/15
前へ
/15ページ
次へ
「好きです」  橙色に染まる教室には、春の暖かさを含む風が吹き込んでいた。私は胸ポケットに付けていた胸章を握り締め、想いを告げる。  恐る恐る瞑っていた瞳を開けると、そこには困惑した表情を浮かべる彼が居た。 「ありがとう。けれど、君の気持ちに応えることはできない」  彼は頬のホクロに触れながら、ゆったりと視線を逸らす。その癖を見た私は「恥ずかしがっているのね」などと何処か楽観的に考えていた。 「じゃあ、20歳になったら私のことを1人の女性として見てくれますか?」  気付いた時には、そんなことを口走っており慌てて口元を覆う。夕陽に溶け込みそうな程、頬が熱を帯びるのを感じる。  思いがけず飛び出した言葉は少しばかり揺れており、胸章を握る手がキリキリと痛んだ。 「その時は……分からないかもな」  曖昧に答えた彼は、少し照れくさそうに再び頬のホクロに触れたのだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加