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かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出会う 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だぁれ? 幼い頃の記憶。 夕暮れ時・・・ 近くの神社の境内で 一緒に遊んだのは・・・ 誰だった? 名前も顔も何故だか・・・ 思い出せない。 それが・・・ 誰だったのか思い出したくて瞼を閉じれば・・・ まるで空が燃えてるみたいな真っ赤な空と その赤い空に似合わぬ白い手が浮かぶ。 鬼になったオレはしゃがんで歌が終わるのを待つ。 目隠しを解いたオレが振り返ると かならずその白い手がオレの肩にあった。 そのあまりにも色白な手を見て オレの背にゾクリと冷たいものが走る。 何だかその白い手が神社の赤い鳥居から伸び オレを真っ赤に染まる空に連れて行こうとしてるように感じて。 in the cage 久しぶりの実家。 去年の夏休みは・・・卒業制作が忙しくて帰って来られなかった。 で、今年は・・・美大での4年間をダラダラと過ごしてたせいもあって、未だに就職先も決まらず配達ピザのバイトと、漫画家の友人の締め切り前の手伝いでなんとか食いつないでる感じの所謂フリーターのオレは、世間で言う盆休みから少しずれて3連休もらえたのを使って、まぁ・・・3食+昼寝と、帰宅の際に母ちゃんが持たせてくれる米に肉、野菜やらを期待して実家に帰って来たってわけ。 父ちゃんも母ちゃんも、流石!っつうか、オレのこのどうしょうもない性格を熟知してるからか、美大を出て定職にも就いてないオレに何も言わねぇけど、姉ちゃんからは顔を会わせる度にチクチク嫌味を言われて2日目。 ま、明日には帰るんだから・・・って姉ちゃんの嫌味を聞き流しながら夕食を頬張ってたら、つけっぱなしになってたTVから夏定番の『怖い話特集』みたいなのが流れてきてて。 その中の特集?なのか・・・『本当は怖い動揺』ってヤツに昔よく遊んだわらべ歌が取り上げられててさ・・・思わず箸が止まっちまったオレ。 TVからはか~ご~め、かごめ・・・小さな女の子の歌声。 「これ・・・昔、よく遊んだよな?  あれ・・・誰だったっけ?  ほら・・・あの・・・えっと・・・」 言えば 「あ!翠くん?」 姉ちゃんは直ぐに思い出したのか口の中のコロッケを飲み込んでから、オレが思い出せずにいた名前を意図も簡単に答え 「ああ・・・鈴木さんとこの翠くんね!  あら・・・懐かしいわね。  確か、真也と同じ歳だったはずよ。  色白で女の子みたいに可愛い子で・・・  あんたったら何を血迷ったのか『お嫁さんにする!』とか言って、ずっと翠クンの後ばっかり追って・・・  あれには笑っちゃったわ。」   母ちゃんは過去の記憶を手繰り寄せて話してくれんだけど・・・オレは全くっていい程、その翠クンってやらを思い出せなかった。 ただ、なんとなく思い出せるのは・・・夕暮れ時、一緒にあのわらべ歌で遊んだことぐらいで。 それも本当にそうだったのか?って訊かれたら自信がない。 それにその遊んでた子が、母ちゃんと姉ちゃんの言う翠クンだったのか?って感じでさ。 曖昧過ぎる記憶をなんとか辿ろうとして、オレはぼんやりと皿の上のコロッケを箸でつついてたら・・・母ちゃんが更に何か思い出したのか「あ!」って口を押えた後 「そう言えば翠くん、肌が弱かったのよね。  あまり日光を浴びたらいけないとか・・・何だったかしら・・・難しい名前の病気だったのよ。  だから、その病気を専門で診ている病院の近くに引っ越すって・・・確か・・・N市じゃなかったっけ?  そうそう・・・そうだわ。   今、あんたが住んでるとこよ!  近くに大きな病院とかない?」 そう言ってオレの顔を覗き込んできたんだけど・・・病院って・・・そんな有名な病院あったか? ・・・って、オレの行動範囲狭いもんなぁ。 宅配ピザの仕事してるって言っても注文のあった場所に届けるだけで、元来面倒臭がりなのと興味が湧かないモノには基本スルーなオレは、近くに何があるとかいちいち調べたりしねぇし、視線の先に捉えてたとしても記憶に留めねぇしなぁ。 今、オレが住んでるN市は此処よりちょっと・・・いや、だいぶ田舎だ。 変な話、宅配ピザ屋があるのもオレん中じゃ不思議なくらいで。 そう考えれば確かに・・・ここよか環境はいいから、難しい病気って言うか、体調を崩してる人の治療とかには向いてる環境なのかもしんねぇ。 人工的に作られた公園とかじゃなく、川とか森とか・・・そう言う自然が残ってるし。 帰ったらちょっと探してみっか・・・って、オレはその時、そんなことをぼんやりと考えてた。 もしかしたら・・・その翠クンとやらに会えるかな?って少しだけ期待なんかもしてみて。 今もその翠クンが住んでるなんてわかんねぇのに。 TVではもう女の子の歌声は消え、『わらべ歌の本当の歌詞はこうだったんです』と男性の声。 「かごめかごめ   籠の中の鳥は   いついつ出会う   夜明けの番人   鶴と亀が滑った   後ろの少年だあれ?」 それは・・・オレが昔、歌ったのとは違う歌詞だった。 その歌詞を聞いて、オレは背後から誰かの声が聞こえたような気がしてドキリとする。 『籠目籠目   加護の中の鳥居は   いついつ出会う   夜明けの番人   つるっと亀が滑った   後ろの少年だあれ?  ホントはね、こうなんだよ?  この歌・・・まるで僕のこと歌ってるみたい。』 そうだ・・・誰かがオレに教えてくれた。 ホントの歌詞は違うって。 TVから流れてた歌とも違ってたような・・・。 そうだ・・・そうだよ。 似てるけど・・・違ってた。 落ちてた木の枝で地面に書いてくれた歌詞には難しい漢字がいっぱいで。 それを読めないオレに、鬼になった時みたいに目を両手で隠すように言うと、あの歌に合わせて歌ってくれたんだった。 歌が終わるとオレの肩には手が乗せられて。 それに驚いたオレが振り返ると・・・ まるで空が燃えたみたいに真っ赤に染まった空。 その赤い空に似合わない白い手。 『・・・し・・んや・・・くん・・・』 オレを呼ぶ声と共に肩に感じる肩に乗せられた手の感触。 その感触が今、オレの肩にも・・・。 名前も顔も思い出せないその存在が、まるで今でもオレの後ろにいるようで・・・オレの全身からサッと血の気が引いていくのを感じた。
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