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「おい。何で使用人としてなんだ。やめてくれ、俺が耐えられん」
カイがそう言ってレナに複雑な視線を送っている。その様子を見ていた使用人たちは色めき立った。
もしやこれは主人が彼女の心を掴む前の段階なのかと、全員が2人の様子に釘付けになる。これは主人のために一肌脱ぐところだろうと、嬉々としてその様子を見守っていた。
「私、できれば何か仕事をしていたいわ。何もすることなくお世話になんかなれないし・・」
レナはそう言ってカイに労働の意志を示した。カイはレナがもともと働き者だったことを思い出し、確かに何もすることが無いのは酷かもしれないと考え込む。
「・・領地で、人手を探しているところで働いてみるか? 大した稼ぎにはならんだろうが、衣食住はこちらで用意するから生活には困らないだろうし・・」
カイが当然のように言ったのを、
「そんな、お世話になるんだから生活費くらい入れるわよ」
とレナが言ったので、使用人たちは絶望的な視線をカイに送った。
(ご主人様、何て声を掛けてこちらに連れていらしたんですか・・・)
彼女は、完全に居候のつもりではないか。それに対してどうやら主人は同棲の勢いで連れ帰って来ているように見える。
カイは、使用人たちの絶望を抱えた冷たい視線に何となく気付きながら、
「生活費など絶対に要らん。そもそも空いている部屋を有効に使わせるだけのことで、もともと余る食料を分ける程度のことしかしないんだ。遠慮するな」
とレナを説得する。レナは気まずそうにカイを見て、納得したように頷いた。
(ご主人様・・言い方・・)
使用人たちはカイの不器用さに呆気にとられるばかりだ。このままではレナはひたすら誤解したまま屋敷に居続けることになるのではないか。
「ご主人様、長旅でお疲れでしょうし、レナ様とお茶でもされたらいかがですか? 後ほど持っていきますので、お部屋でお待ちくださいな」
メイド長が堪らず声を掛ける。カイとレナを席に着かせてゆっくりさせる作戦だった。
「ああ、そうだな」
カイはそう言って自分の荷物とレナの荷物を使用人に預け、レナと共に自室に向かうことにした。
レナは自分の荷物が使用人に運ばれていくのを見て戸惑う。10ヶ月前であれば当たり前だったその行為は、レナにとって居心地の悪いものになっていた。
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