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「兵士のいるところを進むつもりはないってこと。それができるかどうかは、綱渡りだけどね」
「それで、ロキの情報網に頼るってわけなんですよ」
「……へえ……?」
レナがきょとんとしている。どうやら事態を把握しきれていないようだ。
「ルリアーナに向かったのは、戦いを回避してルイス王子に会えると思ったからだ。『ブライアン・バンクス』という旧パース領の領主の名前を出して面会の約束を取る予定だった。ルイス王子は俺がブライアンという富豪に雇われていたのをよく知っている」
そう言った後、カイは悩まし気な顔になった。
「それが国王の元にルイス王子が向かうことになったら、戦いが終わるまでは下手に動かない方が賢明かもしれない」
レナはルイスに会いに行くということが、思った以上に大ごとなのだと気付く。
「それじゃあ、暫くここに待機することになるかもしれないの?」
「まあ、あの駐屯地よりはマシだろ」
カイがレナにそう言って納得させようとしたので、ロキの眉間に皺が寄った。
「おい、この宿に文句でも? 嫌なら他をあたってもらっても良いんだけど? ホントにさあ、タダ客ほど態度が悪い客っていないよね……」
「違うの、ロキ。そういう意味じゃなくて」
レナが慌てて訂正するが、カイは我関せずの姿勢でロキの発言など聞こえないフリだ。
「おい、そこの騎士団長がそういう態度なら、別に俺は請求を上げたっていいんだよ」
「すまなかった」
カイは謝罪がタダなことがすぐに計算できる。レナはそんなカイに白けた顔を向けた。
(お金が絡まなくても、こういう時は素直に謝ればいいのに……)
レナは、ぶれないカイを久しぶりに目の当たりにして苦笑いを浮かべる。
カイがお金の切り札を交渉に出された途端に弱いことを、すっかり忘れていた。
「ねえ、あの男よりも俺の方が良い男だと思うよ」
ロキが苛つきながらレナの隣でカイを睨んで言うと、レナは「んー」と声を上げながら難しい顔をしていた。
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