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「ねえ、カイ。気分転換に、街を歩かない?」
全員が静かになったところで、急にレナが口を開く。
こんな時にこそ、部屋で考えていても仕方がないかもしれない。
「そうだな……」
カイが席から立ち上がると、すかさず、
「俺も行く」
とロキが当然のように言った。
「……街を歩くというのは、みんなでワイワイすることじゃないぞ」
「ここで2人っきりになって浮かれられたら、あの間諜に刺されかねないと思ってさ」
「……」
レナは恥ずかしそうに俯いていた。すぐに態度に出てしまうらしい。
「それに、今のカイ・ハウザーは普段とは違う」
「それはそうだが……」
「ロキが行くなら俺も行きますよ」
結局、4人での外出が決定した。
ぞろぞろと個室を出て飲食店を後にする。ロキの本社のある街に比べたら人は少ないが、人通りは途切れない程度にある。
でこぼことした石畳の敷かれた道は、徒歩の足には優しくない。時折つまずきそうになりながら歩くレナを、カイが咄嗟に支えた。
「歩きづらそうだな」
「こういう道は、慣れていないのもあるわね」
レナが困ったように笑う。カイはなるべく急がせないように歩幅を狭めてゆっくりと歩いた。
「ご無事でなによりですね」
不意にレナの後ろで声がする。その場に緊張が走った。
カイ、シン、ロキの3人は素早く振り向き、その人物を捉える。
何事だろうとレナもゆっくり後ろを向いた。
「お久しぶりです。僕の妹ってことになってるんでしたっけ?」
そこには、目の奥が笑っていない笑顔を貼り付けた、あの男が立っていた。
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