僕がお母さんなら良かったのにね

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 地球温暖化が叫ばれて久しい昨今、EV化が進みつつある中でもガソリン車のエンジン音排気音が聴きたくて相も変わらず二酸化炭素を撒き散らす自動車愛好家がまだまだ少なからずいる。言わずもがな大抵、男で中でも硬派なのはスポーツタイプのマニュアル車ということになるが、結婚すると嫁の言いなりになってオートマの普通の車に代えざるを得なくなる。何故と言うに、あなたの車は経済性も利便性も世間体も悪いし時代と逆行してるし私が利用しようとしてもオートマしか乗れない以前に恥ずかしいから利用できないじゃないと言う妻に夫は渋々従うしかなくなるからだ。また、仮令、趣味車(セカンドカー)として持ち続けたいと言っても駐車場を余計に借りなきゃいけないじゃない!そんなの絶対無理!と言う妻にも渋々従うしかなくなるからだ。  しかし、村田という男は違った。彼は飽くまでも夢を諦めず、44歳の時に車2台分のガレージ付きマイホームを建てたのだ。この家を建てることに当たって妻の奈保子は自分もマイホームに住みたいから反対しなかったが、村田が新たに納車したホンダビートを内心、馬鹿にしていた。 「人間は時として満たされるか満たされないか分からない欲望の為に一生を捧げてしまう。その愚を笑う者は畢竟、人生に対する路傍の人に過ぎない」と芥川龍之介は言ったが、奈保子は正にその路傍の人なのであってビートが公道で性能を持て余さずにフルに発揮して楽しめるファンツードライブな車であることを露程も知らないのだ。但、ビートがデートカーに向かないのは確かで奈保子は村田がビートでドライブに誘っても中々応じなかったが、奈保子の観たい映画を観にビートで連れてってやると村田が誘うと、やっと応じた。しかし、ビートに乗っている間、終始、恥ずかしがって行きや帰りに家の近所を走っている時なぞは世間体を気にしているから殊に恥ずかしがって〇〇さんに見られたらどうするのだの△△さんが見てたらどうするのだのと騒ぎ立てビートについても煩いだの狭いだのと文句を捲し立て常に不満そうに振舞った。
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