僕がお母さんなら良かったのにね

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 爾来、既に夫に倦怠感を抱いていた奈保子との夫婦仲がぎくしゃくし出した村田は、息子の保雄(20歳)を味方につければ自分の言い分を通せると踏んで奈保子の代わりに保雄をビートでドライブに誘うようになった。で、ビートのオーナーズクラブメンバーの有志数名で運営されているホンダビートのイベント、ミートザビート2020に保雄と参加することにした村田は、イベント会場へは可成りの遠乗りとなるので前日は英気を養おうと或るコンテナホテルに泊まる手筈を取った。ところが、ダブルルームとツインルームを履き違えてダブルルームで予約を取ってしまったが為に男二人で一つのベッドに寝ることになってしまった。で、息子の顰蹙を買い、「野郎二人で寝るってか。僕がお母さんなら良かったのにね。でも、お母さんは来たがらないんだよね」と保雄に嫌味を言われてしまった。  果たして親子ベッドイン後も、「こんなの有り得ないんですけど~、って言うか、きもいんですけど~」と保雄に言われ、どうにも寝付けなかった村田は、翌朝、疲れが取れない儘、チェックアウトして朝食を取るためビートでデニーズへ向かう中、車中でも、「ビートに全然、興味湧かねえし~みたいな~、そもそもスポーツカーって何が良いの?ミニバンとかSUVの方が全然イケてね」と保雄に言われ、ビートが100台位集まったイベントの間も保雄の冷ややかな態度に完全に計算が狂ったことを見て取り、カップルで参加している男女と交流した後なぞは、「めっちゃ羨ましがってるし~、僕がお母さんなら良かったのにね。でも、お母さんは来たがらないんだよね」とまたしても保雄に嫌味を言われてしまった。  おまけに帰宅後、奈保子に見透かされ、「保雄を味方に付けることは出来なかったようね」と言われてしまった。で、「家族の者と近所の者の誰にも理解されない。所詮、俺はマイノリティさ。ま、分かる者にだけ分かってもらえれば良い」と村田は諦観し、馬鹿にする妻子を余所にビートの走りの楽しさとビート乗りの仲間にだけ拠り所を求めるのだった。
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