金色の海月

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彼に翼があることに気付いたのは、東京の人工砂浜を歩いているときだった。 小波に逆らう不自然な流れが起きたのだ。それも、彼が歩くペースに合わせて。彼が歩いたそばの海面には波紋が広がり、彼と一緒に移動する。夏をすぐそこまで迎えた夕暮れだった。 少し昔に都市伝説として仰々しく噂された、「目に見えない翼の生えた人間」が本当に存在するとは、世の中の誰もが思っていなかったはずだ。話す全ての人が半笑いの、ありえない作り話。 ーーー翼の生えた人間は、翼の生えた人だけを好きになる。意識の範疇を超えて、翼同士が惹かれあう。子孫を残すためだ。脆弱なその翼の遺伝子は、翼のある者同士でしか、引き継ぐことができなかった。 人に化けた一種の根性のような意思を、翼に蓄えて人の目から隠し続けた。何千年も、彼らはその翼を背負って窮屈そうに人に紛れて生きてきた。 しかし、翼もまた自然から発するもの。月明かりにだけはその黄金は透かされ、はためかせば目に見えぬ風が水面を、木々を揺らした。
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