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ノリオはイサたちと別れてお寺の墓地から帰ってきた。穴に落ちて死ぬかと思ったが、久しぶりの墓石飛びは楽しかった。お墓の周りの壁の上を走って、となりの列に飛び移ったり、地面に飛び降りたりする。難しいところを連続で飛べると自分がスーパーヒーローになったような気がした――小三のころまでは。きょうはとてもヒーローという気分ではなかったけれど、それでも久しぶりに楽しかった。
ここのところ、家では嫌なことばかりが続いている。母がまた精神病院に入院してしまったこと、兄が祖母に暴力を振るうようになったこと、父が出張ばかりでほとんど家にいないこと……。きょうも兄は祖母を座布団で叩きまくっていた。イサたちが来て、遊びにさそう声が聞こえて兄は叩くのをやめた。
家の門をくぐって、ノリオは自転車を置く納屋に向かった。西日に照らされた自分の影が庭の地面に伸びる。ノリオは自転車を下りた。足が重い。きょうも兄は狂ったように祖母を叩いていた。殺してしまうのではないかと思った。
また祖母の愚痴を聞かされる。兄に暴力を振るわれたあとは必ずだ。どうしてあたしがミツオに叩かれなきゃなんない、どうしてミツオは学校に行かない、どうしてお前も黙って見てる、どうしてミツオを止めない、どうしてどうしてどうして……。
祖母はしゃべりながら興奮していく。いつもそうなる。何を答えても、答えなくても、一度開いた祖母の口は唇の端が白く泡だらけになるまで動きつづける。最後はきまって母の悪口だ。耳をふさいでも聞こえてくる。おまえたちがこうなったのも、おまえたちの父親が、アキヒコが家に寄りつかなくなったのも全部おまえたちの母親のせいだ、とんでもない女だ、母親失格だ、いなくなって清々した――また、聞かされる。そう思うと、ノリオの心は深く沈んだ。
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