母の処方箋

　そうして毎日寄り道なんかしていたツケなんでしょうか。息子は大学受験に失敗しました。あんなに行きたかった東大には合格できず、一年浪人させましたがだめでした。そして三年目には志望を落として、東大じゃない国立に行きました。あたくしはそれがもうショックでショックで、しばらくは泣き暮らしておりました。だって、今更、ご近所に顔向けもできませんもの。回覧板の一番上に紙を継ぎ足して「息子が受験勉強しています。午後九時以降は騒音を立てないでください。子どもさんは絶対に道路で遊ばせず、近隣の公園で遊ばせてください。耳障りです」と書いて回したのだから、これで東大に行けなかったら後ろ指差されてしまいます。……そうですわね。後ろ指差す人はいませんでしたが、なんとなく、皆うちを避けているような感じはしました。きっと、東大ではなくとも国立大生になったうちの息子が優秀だからと気おくれしてられるんでしょう。東大にストレートで合格なんかしていたら、どんなことになっていたかと思います。そういう意味では、東大でなくてかえってよかったのかもしれませんけれど。