母の処方箋

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 苦労してなんとか入った一部上場の優良企業でしたが、息子はそこでどうも嫌がらせをされたようでした。あたくしや夫にも何にも相談しないもんですから事情は分からないのですが。まさか一部上場の会社でそんな目に遭うなんて思いませんでしたから、訴訟でもしようかと声をかけたんですが、力なく首を振って「僕、ひととうまくやれないみたいだ」と申します。そりゃあそうよ、だってアナタは天才で、二年も浪人はしたけど国立大学卒の頭のいい人間なんだからそのへんの凡人となんて話が合うわけないのよ、と慰めたんですが、あの子ときたら悲しそうに私を見つめ返すばかりで、小さな声で「同期にはもっといい大学を出たひとだってたくさんいるよ。みんな勉強ばかりじゃなく楽器や絵やアウトドアの趣味を楽しんでいたよ」なんて言うのです。
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