とある殺人犯の独白

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 食べる魚や肉は、まず獲物として捕らえ、そして捌く。ぼくの頭にはそれしかなかったです。ぼくには、誰でもがあって然るべき感情を育む環境がなかった。空気のいい自然の中で育てれば、テレビも漫画も不必要、なんでもその身で体験させればいいという、非常にアバウトな教育……いや、もう教育とすら呼べない野放し状態が、最終的にぼくを殺人犯にしたんです。  学校では確かに道徳の授業はありましたよ。でも、遅かった。授業を受ける頃には、もう遅かったんです。毎日のように生き物を殺す現場を見せられてきたんです。生きるとはなにか、死とはなにか、そんな単純な生死の概念すら備わっていないまっさらな状態で、食べるために動物を殺してきたんです。ぼくには、それが当たり前だった。だから、殺すことに対し可哀想などという感情は生まれず、そこに恐怖も生まれない。  生きた鶏の首を平気でへし折り、イノシシの首も鹿の首も平然とぶった切る。血も怖くなければ、内臓を見て気味悪がることもない。そんな子どもを育てるのが、自給自足です。  もし、母が寝る前に絵本でも読んでくれていたら違っていたかもしれない。でも、何度も言うように両親はぼくにそういった類のものを一切与えなかった。絵本や漫画から、なにかを学ぶことだってあるでしょう? テレビを観て学ぶことだってある。むしろ、そういったものからしか学べないものが数多くあったはずです。でも、ぼくにはなかった。  だから、ぼくの心はずっと暗闇の中で息を潜めていたんです。感情という名の人間らしさが呼吸をするのを、ずっと待ちわびていたように思います。
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