422人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
「ずるいって、責めろや」
「は?」
「責めてくれや。あたしというものがありながらよくも、って」
「そんな立場じゃないよ」
「……寂しいこと言うなや」
はるやは一瞬あたしに手を伸ばしかけて、やめた。
「いまさら、信じてもらおうなんて思ってないけど……おれ、ちーちゃんのこと、好きや」
「は……?」
「ちーちゃんが好きやから、シバたちの件については道化でいようと思ってた。……けど昨夜、あの人が泣いてるの見たらどうしても止まらんかった。おれ、自分はもっとそういう自制の利く男やと思っててんけど。情けない話やで」
まくしたてるように言うはるやに、いつもの余裕はないようだった。
「はるやは、あたしになにを求めてるの……?」
「わからん……ただ、責めて詰ってめちゃくちゃにして欲しい」
「バカじゃないの……?」
「でも、捨てられんのはいやや。どうしていいかわからん」
もっと言うべきことも、するべきこともあったんだろうと思う。
だけどあたしはやっぱりいつもどおり愚かで。
好きだと言われたことが嬉しくて、この哀れな男を見捨てる気持ちにはなれなかったのだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!