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天川くんは謙遜するが、彼はたまにあたしの隙をついて促してくる。奥さんの先輩だからって、他人のあたしなんてほっとけばいいのに。
「わかった。自分のこと笑いにしようなんて思ってないけど、ちょっと気をつける。癖なら悪い癖だもんね」
「……なんか、すみません」
「ううん。言われるようなことしてるのはあたしだもん。ありがとう」
天川くんがあたしをいじめているわけではないことはわかっている。彼はむしろ他人とは適切な距離を置いているように見えるから、あたしを本当に友人扱いしてくれているからこそなのだろう。感謝しかない。
本当のことを言われて怒るのと、素直に受け入れるのとを天秤にかけた結果、ちょっとでもかっこいいほうを選ぶのは30を過ぎた大人のスタイルだ。
だけど人には見せないあたしの裏側で、しくりしくりとなにかが軋み、さびしがる。
──好きで、こんなバカみたいな女になったわけじゃないのに。
パフォーマンスの笑顔だけが本当にうまくなってしまったな、と思いながら天川くんからコーヒーを受け取ったとき、ようやく夏菜子が現れた。
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