迷うなら、恋じゃない

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   心の中では坂田のことを想っているのに、現実では別の男とつき合い、抱き合ったりする。  そういう日常に慣れっこだったが、実際自分を抱いている男が坂田のことを承知──という関係は、実ははじめてだ。  でも、それってどうなのだろう。はるやがあたしのことを気に入ってくれているのはわかるが、互いに好きではないのに執着なんて生まれるものなのだろうか。  いますぐ答えの出ない自問だとわかっているせいか、やりかけの書類仕事にちらばる数字がクルクル浮かんできて、つい散漫になる。  1クールで終わる短い恋愛ドラマなんかだと、はるやのポジションにいる男が「おれにしろよ!」なんて言い出してくれるものだが。  他人の気持ちの変化を期待しているあたり、自分の傲慢を感じる。こうして悩んだりするのははるやがお寺の息子さんだからなのか。  30を過ぎて数年、自省なんてしなくて済む程度の生きかたしかしてこなかったことに気づいてしまう。 .
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