迷うなら、恋じゃない

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   坂田は結婚したし、あたしも違う男とつき合ってきたのだから、初恋を忘れるべきタイミングなど何度もあった。  だがそうしなかったのはあたしの勝手なのだ。自分でこの恋が本物だと勝手に決めて、勝手にしがみついていた。  妻帯者である坂田とふたりきりで会う機会をためらうくらいには、線を踏み越える覚悟なんてないくせに。 「……あたしはいったい、どうしたいんだろう……」  口に出してみるまで、気づかなかった。あたしは坂田への恋心を抱えて暮らす以外のことを、強い気持ちで考えて決めたことがあまりない。  高校は、中学の担任に「がんばれば受かる」と勧めてくれたところに決めたし、大学も似たようなもの。なんなら就職も。そこそこの努力はしたつもりだけど、落ちる確率が低いところを選んで、血のにじむような思いをした覚えなど一度もない。  いままでつき合った男の中のだれかが特に問題を起こさず、「結婚して欲しい」と言ってくれたら乗った気もする。 .
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